昌美ちゃん(女子)は、私が大学3回生の時、初めて教えた生徒である。 当時小学3年生。軽い情緒障がいがあった。 初めてお母さんと一緒にやってきた時、笑うこともなく、口数も少なかった。 彼女は黙々とピアノを(かなりムチャクチャに)弾きまくるだけで、私が何か言おうとしても反応もなく、 手を持って間違っている音を直そうとすると嫌がるで、とても「教えている」状況からは遠かった。 しばらくの間、そんな彼女を毎週30分間好きにさせておく、という日々が続いた。
しかし、その変化は、ある日劇的にやってきた。 小さい発表会に出たのがきっかけだったと思うが、私が「先生」である、という認識が、彼女の中に芽生えたのである。 それからは、私の言うことを聞いてくれるようになった。彼女は天才的な絶対音感があり、ほとんどの曲を口(くち)三味線で覚えた。 18歳で、就職を機に「卒業」したのだが、やめる前にはモーツァルトの「トルコ行進曲」や「ソナタ」を弾いていた。 だが、楽譜は読めなかった。…というより、たぶん耳で聴くほうが早いので読まなかっただけだと思う。
彼女の場合、私がドレミで歌う曲をほぼ1回でそのままピアノで再現できたので、あとは指使いを直す、などという作業ですんだ。 ただし、この方法は、指導する側に絶対的なソルフェージュ能力が必要だ。ちょっとでも音程をはずして歌うと、隣の音で覚えてしまう。(これは、やられた!と思った。) まず左手を弾きながら右手のメロディーを歌う。 右手がだいたい弾けるようになったら、左手を歌って少しずつ渡していく。(難度の高い曲になってくると「♪チャンチャンチャ~ン」みたいな事もあった。)
そして、指使いなどを直すのだが、障がいのある子どもの場合、後から「もう1回弾きましょうね。」は、ほとんどの場合通用しない。 演奏は1回限りである。1回目を弾く時に、気づいた事は全部言ってしまう。その時、その場で直らなければ、1週間そのままで待つしかない。 だからと言って、無理やりその場で直す必要もない。
1週間後、びっくりするくらい簡単に直ることもある。(その逆もある。)
ぱんださん
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